もうひとつは、そういうことをすると、食事のときの団楽、雑談が阻害されるということです。
食事のときの団楽は、親が子どもの学校生活上の悩みを見抜いたりするうえで、貴重な時間です。
学校や塾で少しいやなことがあったらしいとか、仲の良かった友達と最近少しギクシャクしているらしいとか、わざわざ呼んで尋ねるほどではないけれど、把握しておきたいことがある程度あります。
そういうことの感触をつかむのに、家族の団楽は欠かせないものなのです。
家族関係がごくふつうに順調なら、じつは、話をすることのほうが、テレビなどを見たりするよりも、子どもにとっては勉強のよりよい休憩や気晴らしになるはずなのです。
ですから、テレビと食事は分離するのがよく、もし、時間がかち合うようでしたら、テレビ番組をビデオに録っておくのがよいと思うのです。
第二章考える力の伸ばし方ビデオ録画で時間を節約するなるべく早い時期に、テレビ番組はいったんビデオに録ってから見る習慣をつけるのがいいと思います。
そのことにより、勉強前にテレビ番組を見る、テレビと食事を分離するなど、さまざまなメリットがあります。
それらの多くはすでに述べましたが、まだ述べていないメリットを少し追加しておきます。
まず、大きいのが、コマーシャルの時間の節約です。
子どもはどうしてもテレビは一定時間見るものですが、コマーシャルの時間を早送りしてとばして節約できる時間は、案外馬鹿になりません。
一時間の番組ならI〇分くらいは節約できるものです。
時間を節約することも大切ですが、時間を節約するという意識を定着させたることも大切です。
その意味で、一〇分の節約はI〇分の節約以上の重要度があります。
テレビ番組の何割かは、子どもにとってもあまり面白くなく、途中で見るのをやめてもいいと思うことがずいぶんあります。
同時に見ている場合には、それでも最後まで見てしまうことが多いですが、ビデオに録ってあれば、いったんやめることができます。
しばらくして最後まで見たければ見ればいいのです。
そういうふうにしてみると、案外最後まで見たいものは少ないものです。
それだけ時間の節約になるのは言うまでもありません。
英語の習得は早いほうがよいという考えのもと、四歳児、五歳児を対象にした英語塾があります。
自分のした苦労を子どもにさせたくないという考えからか、こういうところに子どもを通わせる人がいますが、必要ありません。
そんな時間があれば、お母さんが日本語の本の読み聞かせでもしてあげるほうがよほど賢明です。
言語心理学の研究でわかってきたことのひとつは、人間の思考には、個々の言語の文法を超えた「普遍文法」と名付けられるものがあるということです。
この普遍文法をしっかり身につけた人が、言語的思考に秀でることができるのです。
そういう思考能力は、母国語の鍛錬をつうじて鍛えられます。
ですから、日本語の鍛錬をするほうが、普遍文法とそれに伴う思考能力の鍛錬になり、ひいては外国語の習得にも有利になるのです。
日本語が不十分な四歳児、五歳児に英語を教えることにそれほど意味がないのはそのためです。
自分の子どもが中学生、高校生になって英語が不得手になったとしたら、英語の早期教育をしなかったせいではありません。
英語の勉強をするべき時期になってから、十分な努力をしなかったせいか、あるいは、日本語による思考能力の鍛錬がそもそも足りなかったかのどちらかなのです。
幼稚園のあいだ、小学校低学年のあいだ、子どもを育てる方針でいちばん大切なのは、本好き、文字好きの子どもに育てることです。
この重要性はいくら強調しても強調しすぎることがないほどです。
中学受験以前の学力では、圧倒的に大切なのが国語力です。
六年生くらいになって算数の苦手な子どもを見てみると、国語力が貧弱なため文章題が理解できていないというケースがかなり多いのです。
小学生で「国語が不得意」「算数が不得意」といっても、この二つの能力はまだそれほど分かれていません。
国語が不得意な子はだいたい算数もできないのです。
国語ができるのに算数が不得意という子どもは、能力の問題ではなく、算数の練習量が足りないか、あるいは、算数はそう不得意でもなく得点もまあまあ高いのだが、算数の練習をコンスタントにしている苦労があるために不得意な意識をもっているのにすぎないかのどちらかです。
中学受験の算数ならラストスパートでカバーできることもあります。
国語の成績が短期間で急に伸びることはまずありません。
なんといってもそれまでの読書の量と質の個人差が大きく、埋めるのが容易でないためです。
幼い頃から、本の読み聞かせをふんだんにしてください。
子どもが年少のうちに親がしてあげられることの最大のことがこれです。
勉強の上達というだけでなく、全人格的な成長、親との信頼関係という意味で、本の読み聞かせほど大切なことはありません。
絵本でも、あるいは少し年齢が進んだ時点での児童文学のようなものでも、とにかく読み聞かせをたくさんしてあげてください。
幼稚園入園前から、年中くらいまで、子どもがしきりと読み聞かせを要求する時期があります。
そのときは、言葉を使うシステムが頭のなかでドンドン進んでいるときなのです。
そういうときだから、言葉の刺激が無性に心地よいのです。
なかには、親がくたびれるほど読み聞かせをせがむ子どもがいます。
そういう子どもには、どんなにヘトヘトになっても、読み聞かせをしてあげてください。
この時期の読み聞かせは、後に述べるように多くの直接的効用と間接的効用があります。
読み聞かせで養われるさまざまな能力を後から補おうとすると、別の形のもっと大きな努力が必要となります。
考えれば、この時期の読み聞かせほど報いられる鍛錬は少ないのです。
読み聞かせのコツは、ドラマチックに読み聞かせてあげることです。
台詞のテンポもいろいろに変え、男性の声は男っぽく、女性の声は女らしく、悪者の声は悪者らしく(自分の姿を第三者的に見すぎると恥ずかしいですが)出すことです。
そのお宅にうかがったときに、何気なく私か読み聞かせをしたら、その子はじっと聴いたのです。
見て、その奥さんは、自分の読み方がいくらか冷静すぎる読み方になっていたことに気づかれたのでした。
それから、私のまねをするような調子汀に読み聞かせのやり方を変更したところ、目を輝かせて聞き入るようになったそう尽です。
小学校入学あたりになってくると、子どもはむしろ冷静な読み方のほうを好むようにもなってきます。
でも冷静な読み方のなかに、言葉の勢いが想像できるように成長しているからです。
そのような成長を作るのは、初期の抑揚の強い読み方なのです。
ですから、読み聞かせは少し気恥ずかしいくらいに、ドラマチックにやってください。
子どもによっては、一冊の読み聞かせが終わると、すぐ同じ本の表紙に戻って、またはじめから読んで欲しいという催促を繰り返す場合があります。
親の価値観では、そんなことは無駄なことに思え、ついつい手を抜いてしまいたい気持ちになりますが、子どもは違います。
子どもの頭のなかでは言葉と言葉がつながる感じ、言葉によってイメージのわく感じというのが快感として繰り返されています。
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